OsakaMICTの日記

最先端の低侵襲心臓血管治療を紹介します。 どなたもご覧になってください。

腎臓と下肢に血流障害ある真腔狭小化した急性B型解離へのend-scissors technique and TEVAR症例を供覧

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(一般の方向け説明)
 大動脈の血管の壁は3重層の膜で出来ていますが、その内膜のどこかに穴が空いて、内膜と外膜との隙間に血液が流れこんでしまう状態を、大動脈解離と呼びます。動脈硬化などが原因で最近発症する患者さんは増えており、激しい胸痛や背部痛が突然に生じます。解離が心臓に近い部分で生じているとStanfordA型、そうでないものをB型と分類し、B型はA型に比べると即座に手術が必要とは限りませんが、B型のうち臓器障害などが合併している場合には緊急手術を要します。
 今回紹介する症例はB型の患者さんです。解離の悪影響により腎臓と下肢に流れる血流が乏しくなっていて危険な状態でした。このような場合、臓器の血流障害/環流障害を先に治療して、その後にB型解離の治療を行うのが一般的ですが、特に真腔(血液の本来の通り道)が狭い場合には開腹、開胸して人工血管置換やバイパス術をすることとなり、患者さんに大きな負担が伴う治療となります。
 そこで我々は、カテーテル経由でend-scissors techniqueという手法を用い、re-entry(血液が合流している部分)を拡げることで、真腔を拡大し下肢への血流も改善しました。そしてTEVAR(ステントグラフト内挿術)を行いました。その結果、大動脈解離そのものはもちろん、腎機能も下肢血流も正常化して、患者さんは元気に退院されました。今は外来通院中です。適切な手術を行ったことで、ベッドでの安静を長期にわたって強いられることもなく、短い入院で社会復帰できました。
 このようなB型解離に対するTEVARを使った体に優しい手術は、我々のチームが最も得意としています。これからの医療は、患者さんの生活の質(Quality of life)が術後十分に期待できる治療を行うことが、重要と考えています。心臓の弁や大動脈の治療相談あればpts★tss.med.osaka-u.ac.jp(★を@に換えて)にメールをお送りくだされば、できる限り対応いたします。
 
▼ 「順を追って手技を説明したビデオ(全1.5分間)」を用意しました。以下URLから(医療者限定ですが)ダウンロード可能です。ご質問、ご相談もお受けします。総合内科医など開業の先生方も歓迎です。
https://qlifebox.jp/handai/

 

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(こちらは医療者向け説明です)

症状のある急性B型解離(Complicated acute type B)に対する治療は、困難を伴います。特に臓器血流障害(腹部臓器、下肢などへのmalperfusion)を呈する症例では、血流障害の治療をいかに行うかが大きな課題です。一般的には臓器血流障害の治療を先行するのが重要とされますが、当該治療を通常の人工血管置換やバイパス、または開腹、開胸によるfenestration(flapを切ってre-entryを作成する)はさらに侵襲的です。  そこで今回、我々は腎臓および下肢に血流障害を認めた真腔が極めて狭小化した急性B型解離に対して、end-scissors techniqueを用いてreentryの拡大(fenestration)を行いました。これによって真腔が拡大してcentral repairとしてendovascular aortic repair (TEVAR)を施行することができました。これらの治療により完全に臓器障害(腎機能および下肢血流の正常化)を解消することができ、元気に退院されて外来通院中です。  B型大動脈解離は、血流障害治療と同時にcentral repairであるentry閉鎖を行う必要がありますが、今回行った方法では、侵襲度が低く、患者負担が小さな治療となります。