OsakaMICTの日記

最先端の低侵襲心臓血管治療を紹介します。 どなたもご覧になってください。

本邦初のNellixによるEndovascular aortic sealing (EVAS)治療症例のご供覧

本邦初のNellixによるEndovascular aortic sealing (EVAS)治療症例のご供覧

~低侵襲腹部大動脈瘤治療の新しい治療法がいよいよ日本でも~

 

【背景】

 2006年に本邦でも腹部大動脈瘤に対してステントグラフト治療(Endovascular aortic repair: EVAR)が導入され、その治療方法は、その低侵襲性により急激にその数は増大し、2013年から年間の腹部大動脈瘤治療の半数以上がEVARで施行されています。

 ところがこの治療方法の術後にはendoleak(ステントグラフトと大動脈壁内壁の間に血液の漏れが起こること)という問題がつきまとうことは周知の事実であり、特にtype II endoleak(元々大動脈瘤から分岐していた細い血管が、ステントグラフト挿入後に逆流して瘤内に血流を起こし、完治を妨げる)はその治療方法において難渋しているのが現状です。我々のEVAR症例での解析では、術後早期には症例数の31.5%にtype II endoleakを認め、遠隔期でも27.6%を認めています。さらに驚くことに、そのtype II endoleakを認めた症例のうち42%(全症例数の11.6%)の症例で瘤の拡大を認めています。大動脈瘤治療の最終目的が瘤破裂防止であるならば、その原因となる瘤拡大は防がなければなりません。今回のデータを基に考えると、現状でのEVAR治療は低侵襲性が前面に出ているもののradical surgery(根治手術)ではなくpalliative surgery(姑息手術)と言わざるを得ません。

 

【EVASとは】

 このtype II endoleakを如何に減らし(もしくは完全になくし)、低侵襲治療で腹部大動脈瘤を根治するか?この大きな命題に回答してくれたのが、Endologix社のNellixです。他社がlow profile化(デバイスを細く)、flexibility(よく曲がる)の改善を進めてきた中、Endologixは瘤内部をpolymerで完全にsealing(埋めてしまう)する方法でtype II endoleakを無くすことを考案しました。

 

【初症例のビデオ】

 今回我々はtype II endoleakの可能性が高い2症例に対してEVASを行いました。手術時間は1時間程度で、非常によくできたシステムとの実感を持ちました。施行手順は動画をご覧ください。

 まず、腎動脈下からiliac bifurcationまでの長さを測り(大動脈径はこの手術には関係ありません)、10mmのballoon expandable typeのステントグラフトを両大腿動脈より挿入して、ステントグラフトをバルーンで拡張した後、そのステントグラフトの周りにあるバッグ(Endobagという)に生理食塩水を圧が180mmHgまで上がるまで注入してその量を決め、造影をして瘤内に漏れがない(endoleakがない)ことを確認します。その上で生理食塩水を完全に吸引し、続いてpolymerを速やかにさっき計測した量を目安に180mmHgまで注入します。これで終了です。

 

【結論】

 すでに欧州では3年前から導入されているデバイスであり、当教室でも数年前から導入を考えていたのですが、やっと最近Endologix社と本格的な相談ができるようになってこのたび実現しました。関係者のお力も借りて、なんとか日本への早期導入を模索したいと思います。もちろん最終的な判断をするためには遠隔成績の十分な観察が必要ですが、低侵襲腹部大動脈治療において根治手術の希望の光が見えてきたのは、患者さんにとって大変喜ばしいことです。本ビデオもぜひシェアして頂ければ幸いです。